同一労働同一賃金とは?概要からメリット・デメリットまで解説【2024年最新】
働き方改革の一端として政府によって打ち出された同一労働同一賃金のしくみは、各種メディアで見聞きすることが増え、平等性を図るための考え方として浸透しています。しかし、対応が必要と理解できていても、実際に何をしてよいのか理解できていない人もいるでしょう。今回は、同一労働同一賃金の概要やメリット・デメリット、導入を具体的に検討するためのポイントや手順について解説します。
同一労働同一賃金の概要
近年の非正規雇用労働者の増加に伴い、正社員と非正規雇用労働者の不合理な待遇差が問題視されるようになりました。以下では、同一労働同一賃金の概要を説明し、なぜこのようなしくみが必要とされ広まったのかを解説します。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、同じ内容の仕事に対して、雇用形態に関係なく同じ賃金を支払うべきであるという考え方です。近年、非正規雇用労働者が増加し、労働者全体の4割近くを占めるといわれています。
非正規雇用者は、正規雇用者と比較して、業務内容に関わらず賃金や福利厚生などに格差があることが一般的でした。「同一労働とは何か」を明確化することは難しい課題ですが、どのような雇用形態であっても、業務内容によってのみ処遇を決定し、本人も納得ができる説明を受けられる状態が理想といえるでしょう。
同一労働同一賃金が広まった背景
安倍内閣が発足させた「働き方改革実現会議」において、2016年に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が提示されたのが始まりです。近年、グローバルな経済競争の激化、IT技術の急速な発展などによって、労働者の間で格差が広がっていることが課題になっています。
経済発展と生産性向上を目指すなかで、就業機会の拡大、意欲や能力を存分に発揮できる環境作りをするための指針として、雇用形態を問わず誰もが活躍できる社会を目指す取り組みとして提示され、ニュースなどのメディアで報道され話題になりました。正式に可決されたのち、2018年には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、非正規雇用の処遇改善に関する法律の整備が進められています。
2021年には、企業規模を問わずすべての企業で同一労働同一賃金が適用され、法規制の対象になりました。企業担当者は、社内で不合理な待遇差がないかを確認し、待遇差がある場合に納得できる説明をしているかといった対応が必要とされています。
同一労働同一賃金のメリットは?
同一労働同一賃金が適用されると、雇用形態に関わらず、持っている知識や技術によって待遇が改善されるでしょう。非正規雇用者にとっては待遇改善のチャンスですが、企業にとってもメリットが得られるため、以下で解説していきます。
非正規雇用労働者のモチベーション向上
非正規雇用であっても、仕事の内容を平等に評価し、不合理な待遇差がなくなると理解できれば、自ずと仕事に対するモチベーションが向上するでしょう。仕事内容やスキルが同じであるにも関わらず、正社員だけが評価され昇給するような環境では、不満がたまり離職するケースもあります。
従業員全員が一丸となって会社の発展を目指すためには、雇用形態に関係なく実力を発揮し評価される状態が必要です。待遇差についての合理的な説明を受けることができれば、役割分担も明確になり、スキルアップのために何を行うべきか考えやすくなるでしょう。
人材不足の解消
正社員として就職することが難しいと考えている若者や、定年後の再就職を検討している高齢者、育児や介護によって長期間のブランクがある場合など、自分の経験や知識では、第一線で活躍することはできないとあきらめてしまっている人もいるでしょう。
自分に何ができるのかを明確に提示し、企業側が必要とすることが一致すれば、それぞれに合った待遇で採用できます。個人の事情で短時間しか働けない場合でも、雇用形態を問わず、納得できる待遇によって仕事ができるということが当たり前になれば、求職者・未就労者の就職意欲も高まっていくでしょう。
非正社員のスキル向上
パート・アルバイトや派遣社員であったとしても、スキルレベルを向上していくことで評価され待遇が向上すれば、より高度なスキルを求めて資格取得に向けた勉強を行い、仕事に対する考え方も変わっていきます。結果的に企業全体での生産性向上が期待でき、優秀な人材を確保し続けることにも繋がるでしょう。
「派遣社員だから責任のある仕事は任せられない」といった考え方はなくなり、優秀であれば正社員登用や昇給を検討するとなれば、双方にメリットが得られます。働きに見合った待遇が得られるということは、入社してからの業務態度によい影響を与えるでしょう。
同一労働同一賃金のデメリットは?
同一労働同一賃金を導入することによる企業側のデメリットの1つに、非正社員に対しての待遇改善に伴う人件費高騰が挙げられます。不合理な待遇差を改善するには労力がかかるため、導入前に理解しておくべきだといえるでしょう。以下では、同一労働同一賃金を導入するにあたってのデメリットを解説します。
人件費が高騰
同一労働同一賃金の考え方が導入されれば、仕事内容やスキルによって賃金が異なるため、相応の経費が発生します。非正規雇用の人数が多く、仕事内容やスキルに大きな差が生じている場合は、その分、人件費の見直しが必要になります。
企業における人件費予算は、経営に与えるインパクトも大きく、経費削減のために正社員ではなく非正社員を雇用するといった方法は選択できないでしょう。
また、派遣社員を採用している場合、採用時に取り決めた待遇を変更することになれば、人材派遣会社との折衝も必要です。派遣先だけでなく、派遣会社の経営を圧迫する可能性もあることが問題視されています。
従業員に説明・人事制度の再構築が必要
従業員に理解してもらうためにも、説明する機会を設ける必要があるでしょう。実際の仕事内容を可視化し、正社員と非正社員の給料を時給に換算したり、待遇差が正当であることを説明したりすることは容易ではなく、制度の再構築には時間がかかります。
人事担当の意見だけでは決められないため、決定までかなりの労力と時間を要することが予測されます。また、企業としては非正社員の待遇改善だけを目的としているわけではなく、不合理な待遇差をなくすという視点で考えた場合、正社員の賃金を減らすという方向に進んでしまうケースもあるでしょう。このような場合は、会社と従業員との間でトラブルに発展する可能性もあります。
非正規雇用の受け入れが縮小
企業は限られた予算で経営しています。同一労働同一賃金の導入によって人件費の負担が大きくなり経営を圧迫する場合は、経費削減の施策として、非正規雇用者の受け入れ自体を縮小したり、いわゆる派遣切りを行ったりする必要があるでしょう。
同一労働同一賃金によって、待遇が改善されるといっても、人員が減ってしまっては、企業に限らず労働者にとってもデメリットといえます。例えば、条件のよい仕事に応募が殺到したり、より高度な技術やスキルが求められるようになり、人によってはこれまで以上に職に就くのが難しくなる可能性もあるでしょう。
同一労働同一賃金を導入するポイント
同一労働同一賃金を導入するためには、まず何が必要なのでしょうか。現状を把握し、ガイドラインに記載された「不合理な待遇差」を改善していくために、押さえておくべきポイントについて、以下で解説していきます。
正社員と非正社員の職務内容を明確にする
待遇差を確認するには、正社員と非正社員の職務内容と待遇を明確にする必要があります。これらは人事評価にも繋がりますが、非正社員については配属部門任せで、人事担当が正しく把握していない場合もあるでしょう。
職務内容の棚卸を行い、従業員側と雇用者側の双方が理解する必要があるでしょう。同じ仕事をしていながら、正社員と非正社員の待遇に違いがある場合は、改善することが求められます。
違いがある場合は、その違いがどんなものなのか、労働時間、業務内容、責任範囲などを洗い出し、差があることに対する理由を提示することが必要です。
人件費を算出して人員を調整
職務内容を明確にした上で、不合理な待遇差があると判明した際は、該当する従業員の賃金を調整する必要があります。しかし、限られた予算で人件費を算出している場合は、超過した人件費をどう賄うのか考える必要があるでしょう。
例えば、超過額が多いほど組織全体の人員調整が必要になります。一般的に、人員調整が必要となった場合は、正社員ではなく派遣社員や短期雇用者などから契約を打ち切るパターンが多いでしょう。
それでは同一労働同一賃金の考え方に反してしまうため、無駄になってしまう可能性があります。企業として、さまざまな雇用形態で従業員を確保し経営していくためには、人事評価や給与計算のしくみを再構築することも検討する必要があるでしょう。
基本給・昇給の不合理な待遇差をなくす
厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、正社員と非正規雇用者との間で不合理な待遇の相違があってはならないとし、基本給の決め方についても「労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業績又は経験に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨・性格がさまざまである現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」としています。
また、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのか、具体例を挙げて紹介しているため、気になる人は以下にてご確認ください。
同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
賞与・各種手当の均一化を行う
同一労働同一賃金における待遇には、基本給だけではなく、賞与や各種手当、福利厚生、教育なども含まれます。単純に非正規雇用者の時給だけを見直せばよいわけではありません。いずれの場合も、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、「同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」としています。
正社員と比べて待遇に違いがある場合は、その違いが「不合理ではない」と説明できるように、仕事の役割や働き方に違いがあることを整理する必要があります。説明できない場合は、待遇改善を図り、雇用形態に関わらず、賞与や各種手当の均一化を行うことを検討しなければなりません。
同一労働同一賃の導入手順
同一労働同一賃金についての考え方自体はシンプルですが、実際に導入を検討する段階になると、職務内容の把握や、従業員間の待遇の違いなど、確認事項が多く困難になることが予測されます。以下では、円滑に導入するために、手順についてご紹介します。
また、人事評価システムを導入することで、従業員に対する評価を一元管理できるため、おすすめです。気になる人は以下を参考にしてください。
関連記事:人事評価システムの選び方を徹底解説
手順①:労働者の雇用形態・待遇を確認する
初めに、労働者の雇用形態・待遇を確認します。対象となる短時間労働者や有期雇用者がいるのかを確認し、いる場合は、正社員と比べて仕事の内容や責任範囲に差があるかを詳しく調べましょう。実情を正しく把握することが導入成功への重要なステップになります。厚生労働省による手順書も公開されているため、参考にしてみてください。
同一労働同一賃金 導入3ステップ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html#h2_3
手順②:待遇差の理由を確認
手順①で対象者がいる場合、正社員と比べて待遇に不合理と思われる相違があるかがポイントになります。正社員とまったく同じ待遇で、賞与や手当を支給されているケースは少ないため、ここでは待遇差がある判明するケースが多いでしょう。この待遇差について、不合理ではないと説明できる理由があるかが、2つめのポイントです。非正規雇用者本人が納得できる説明が難しい場合は、待遇改善を検討する必要があります。
手順➂:改善計画を立てて実行する
従業員に対して、説明できない待遇差が見つかった場合は、改善計画を立て、実行していくことを検討しましょう。労働者と経営者で、具体的な事情に応じた待遇の改善について議論していくことが必要とされます。また、非正規雇用者についての就業規則が存在しない場合は、作成する必要があり、同一労働同一賃金の考え方に合った改訂が必要です。前述した通り、人件費に大きなインパクトを与えることも多く、実現することは容易ではありません。しかし、すでに法規制が始まっていいるため、実態にあわせた改善が急務といえるでしょう。
まとめ
同一労働同一賃金の導入は、企業が従業員全体の雇用形態や待遇をあらためて把握し見直すためにも役立ちます。テレワークなど働き方が多様化しているなかで、勤怠管理も含めた給与計算システムの導入を検討する企業が増えています。人事評価システムを使えば、誰がどんな仕事をしているのか、就労内容の棚卸にも役立ちます。どのツールが自社にあっているか選定に迷う場合は、PRONIアイミツの機能比較やおすすめサービスを参考にしてみてください。
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