【2025年最新】長時間労働の基準とは?基礎から罰則の内容、対策まで解説
日本社会では長時間労働が常態化している企業が多く、大きな社会問題のひとつとなっています。社会全体がワークライフバランスの見直しを行っている風潮にあるため、健全な企業経営を行うにはこの問題を無視するわけにはいきません。
当記事では、長時間労働の基準・長時間労働の弊害・厚生労働省の取組・違反への罰則・違反の影響。企業が取るべき対策など、企業が把握しておくべき情報を幅広く解説していきます。
- 長時間労働の基準とは?
- 長時間労働が与える心身への影響とは?
- 厚生労働省が掲げた長時間労働削減に向けた取組とは?
- 違反への罰則
- 罰則だけでは済まない?違反が及ぼす悪影響
- 長時間労働を未然に防ぐために企業が取れる対策
- まとめ
長時間労働の基準とは?
長時間労働は、明確な基準やラインがありませんが、一般的に1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えて長い時間の労働を行うことを言います。
ここでは、長時間労働の目安・残業時間に関する法改正・規制が除外される業種など、長時間労働の判断基準となる基礎知識について解説します。
長時間労働の目安(法定労働時間と36協定)
長時間労働は、上述の通り1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えた労働のことを言いますが、基準を超えたからといって直ちに長時間労働と判断されるわけではありません。
36協定と呼ばれる労使間の協定を締結すれば、法定労働時間を超えた労働を行うことも可能です。しかし、現代では法改正により無制限に労働時間を延長することはできません。また、労働者の心身への影響を考慮して、現実的なラインを知っておく必要があります。
社会常識的に長時間労働とみなされる目安は、月平均80時間を超えた時間外労働を行っている場合です。理想的には、時間外労働は月45時間程度に収めるのが望ましいとされています。
具体的な法令による基準・規制については以降で解説します。
残業時間に関する直近の法改正
働き方改革関連法案が施行され、残業時間に関しても法改正により上限規制が法的に定められました。
・時間外労働は原則月45時間・年360時間を上限とする(延長する場合は36協定が必須)
・特別な事情がある場合においても時間外労働は年720時間以内・月100時間未満・2~6ヶ月平均80時間以内
・原則である月45時間を超えることができるのは年6ヶ月が上限
・法令違反の有無は所定外労働時間ではなく法定外労働時間の超過で判断
従来は36協定を締結しておけば、実質的にいくらでも残業時間を延長することが可能であったため、長時間労働に関する深刻な問題が多発。このような事情から今回の法改正にて残業時間が追加された運びとなります。
参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
残業規制が除外される業種
時間外労働の上限規制は全ての業種に等しく適用されているわけではなく、適用が除外されている業種や適用を猶予されている業種もあります。例えば、以下のような業種です。
・研究開発
特定の時期に業務が集中する傾向にあるため、上限規制にそぐわないとして除外。
・自動車運転業務
・医療業務
直ちに上限規制の適用に合わせることが困難であることから、2024年3月まで猶予。
長時間労働が与える心身への影響とは?
長時間労働が問題視されている最大の理由は、労働者の心身の健康に影響を及ぼすためです。労働時間が増える程、心身への負担増大・睡眠時間や休憩時間の不足・余暇時間や家族生活の時間の不足を招き、疲労が蓄積されていきます。その結果、以下のようなさまざまな健康障害が発生します。
■精神的影響
・精神疾患
・精神障害
■身体的影響
・脳疾患
・心臓疾患
・事故
・怪我
上記のように健康を害したりするだけでなく、心身へのダメージが大きい場合は過労死や自殺など死に至るリスクもあります。
「過労死等防止対策推進法」とは
働き方改革の施行や長時間労働による事故発生が社会的に大きく注目されるようになり、厚生労働省においては過労死等ゼロ緊急対策の発表を行っています。
今回の対策は、大きく分けて以下3つの取組から構成されています。
・違法な長時間労働を許さない取組の強化
・メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取組の強化
・社会全体で過労死等ゼロを目指す取組の強化
社会的に重要な意味を持つ対策であるため、企業は各取組に従い改善を行わなければ、社名公表・労働監督署からの指導・捜査といった厳しいペナルティを受ける場合があります。
「過労死ライン」とは
過労死ラインとは、長時間労働と過労死の関係性を判断する基準として、健康障害リスクが高まるとする労働時間を指すワードです。労働災害認定が行われる際に、労働と過労死・過労自殺の因果関係を判定する際に用いられます。
過労死ラインの基準とされている労働時間は以下の通りです。
・2~6ヵ月の期間で月平均80時間の時間外労働
・1ヵ月に100時間以上の時間外労働
過労死発生前に上記の時間を超えた長時間労働を行っている場合は、労働と過労死の因果関係が疑われ、時間が長くなるほど因果関係が強いと判定されます。
厚生労働省が掲げた長時間労働削減に向けた取組とは?
長時間労働削減に関しては、厚生労働省が長時間労働削減推進本部を設置して、企業への働きかけや指導監督等の取り組みを実施しています。
ここでは、厚生労働省がどのような取り組みを掲げ、また推進しているのかについて解説します。
1.「過労死等ゼロ」緊急対策
長時間労働による過労死が大きくクローズアップされるなど、企業の労働環境改善に対する社会的責任を追及する風潮が強まっています。このような状況を受け、厚生労働省では「過労死等ゼロ」緊急対策を発表。企業の対策を強く啓蒙・啓発しています。
その主な概要は以下の通りです。
・違法な長時間労働を許さない取組の強化
・メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取組の強化
・社会全体で過労死等ゼロを目指す取組の強化
引用:厚生労働省「「過労死等ゼロ」緊急対策」
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/151106-03.pdf
これらの対策への対応を怠ると、企業名公表・指導・捜査といったペナルティを受ける恐れがあるため、企業は早急な対応を行う必要があります。
2.労働時間の適正な把握のためのガイドライン作成
長時間労働を未然に防ぎ、また問題の改善を行っていくには、事業者が労働時間を適切に管理するための指針が必要。労働基準法にて労働時間・休日・時間外労働等の規定を設けて事業者に責務を課しているが、実際には十分に機能しておらず問題が発生しているのが実状です。
そのため厚生労働省においても、労働時間等の設定・改善に関する考え方・改善措置を定めたガイドラインの作成を行い、事業者が行うべき具体的な措置の明示を実施。労働基準法がフォローできていない部分の改善を図っています。
3.指導の実施と企業名の公表
厚生労働省では、長時間労働削減への取り組みを強化すべく、違法な長時間労働を行う企業に対する是正監督指導とその結果実績の公開を実施しています。
また、複数の事業所で長時間労働を原因とした過労死を発生させた企業等に対しては、指導を行うと同時に指導の事実を企業名とともに公表するなど、その取り組みを強化。社会への情報提供ならびに他企業への法令順守意識の啓発により、自主改善の促進・同種事案の防止を図っています。
4.経団連への要請
厚生労働省は、関連団体・企業に対しても長時間労働削減に向けた取り組みの協力を要請しています。その代表的な団体が、国内大手企業を中心に構成された経済団体である経団連(日本経済団体連合会)です。具体的な要請には、「年次有給休暇取得促進期間」「過重労働解消キャンペーン」といった標記の要請や取り組み推進の要請などが挙げられます。経団連のような多くの企業に影響力を持つ団体に協力を要請することで、国内全体の長時間労働削減に向けた取り組みを加速させています。
違反への罰則
長時間労働の基準を超えた労働を行わせた事業者は、法令による罰則を受ける可能性があります。ここでは、主な罰則について解説します。
1.36協定を締結していない場合の時間外労働の罰則
労働基準法では、そもそも1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えた労働を行わせてはならないとされています。つまり、そもそも時間外労働を行わせること自体が違法となっているわけです。
法定労働時間を超えて残業を行わせる場合には、36協定と呼ばれる企業側・労働者側の協定を締結する必要があります。もし36協定を締結せずに残業を行わせた場合には、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑罰の対象となります。事業主だけでなく、管理者や責任者も罰則の対象となるため注意が必要です。
2.残業と休日労働の合計が月100時間以上になった場合の罰則
現代では、働き方改革関連法案により、36協定に対しても特別条項付きの上限規制が設けられています。36協定を締結していても、残業と休日出勤の合計は100時間以内に収める必要があります。もしこのラインを超過した場合には、6ヵ月以下または30万円以下の罰金という罰則が設けられています。
繁忙期や突発的な事情による業務集中が起こった場合においても、合計100時間のラインは遵守しなければならないため注意が必要です。
3.残業と休日労働の平均時間が80時間を超えた場合の罰則
特別条項付き36協定では複数の規制が設けられており、2~6ヵ月の休日出勤を含む平均残業時間は全て80時間以内に収めなければならないルールも存在します。違反した場合には、上記と同じく6ヵ月以下の罰金または30万円以下の罰金という罰則が定められています。
上述の通り、残業と休日労働の合計は月100時間とされていますが、長期的に100時間に近い時間外労働を行わせると、こちらのルールに抵触してしまうため注意が必要。慢性的な長時間残業は行わせないように留意しておかなければなりません。
4.月45時間を超える残業が7ヵ月以上あった場合の罰則
平成31年より施行された改正労働基準法では、時間外労働に関する協定である36協定を締結している場合においても、残業時間の上限は月45時間・年360時間に制限されています。特別な事情がある場合においては、特別条項付き36協定を締結すれば、月45時間・年360時間を超えた残業が可能となりますが、無制限に認められているわけではなく、年に6ヵ月までが限度です。これらのルールに違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰の対象となります。
5.月100時間以上/年720時間を超える残業があった場合の罰則
特別条項付き36協定を締結しても、残業時間を無制限に延長して良いわけではありません。特別な事情がある場合においても、残業時間は月100時間・年720時間以内という上限が設けられています。
もし上限規制に違反して従業員に月100時間・年720時間を超える残業を行わせた場合は、6ヵ月の期間を超えて例外的残業を行わせた場合と同じく、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰の対象となります。
6.割増賃金に関する違反があった場合の罰則
時間外労働における割増賃金、いわゆる残業代が適切に支払われない場合は、労働基準法違反に該当するため罰則があります。割増賃金に関しては、民事上の罰則と刑事上の罰則があります。
・民事上の罰則
未払い金の支払に加え、付加金・遅延損害金の支払いが命じられる。
・刑事上の罰則
労働基準監督署の是正勧告により解決しない場合や悪質な場合は、6ヵ月以上の懲役または30万円以下の罰則がされる。
このように割増賃金に関するペナルティは非常に重いため、違反による罰則を受けないように注意しておく必要があります。
7.年次有給休暇の取得義務に対して違反があった場合の罰則
働き方改革関連法案の成立に伴い、企業は年5日の年次有給休暇を従業員に取得させることが義務付けられています。義務化の対象となるのは、以下のような年10以上の有給が付与される従業員です。
・入社後6ヵ月が経過している正社員・フルタイム契約社員・週30時間以上勤務するパートタイマー
・入社後3年半以上の週4日出勤のパートタイマー
・入社後5年半以上の週3日出勤のパートタイマー
違反した企業は、30万円以下の罰金という処罰が課せられます。契約社員やパートタイマーも含まれるため、失念により処罰を受けないように注意が必要です。
罰則だけでは済まない?違反が及ぼす悪影響
長時間労働に違反して罰則を受けると、罰則自体のダメージ以外にも以下のようなさまざまな悪影響が懸念されます。
・悪質な場合は厚生労働省により企業名が公表される
・労働監督署からの厳しいチェック・指導を受ける
・インターネット上で自社の悪評が拡散される
・企業としての信用や評判の失墜
・人材の採用や営業活動、資金調達や上場において不利になる
法令によるところの罰則以上にこれらの悪影響の方が企業活動においては大きなダメージをもたらすケースが多々あるため注意が必要です。
長時間労働を未然に防ぐために企業が取れる対策
無自覚に企業経営を行っていると長時間労働が発生しやすい傾向にあるため、未然に防ぐための対策を講じておくことが重要。
企業が取れる主な対策について以下に解説します。
1.労務管理システムや勤怠管理システムの導入・見直し
長時間労働を未然に防ぐには、従業員の労働時間を正確に把握・管理することがまずは重要。そこでおすすめとなる対策が、労務管理システムや勤怠管理システムを導入することです。
これらのシステムには、労働時間の管理を効率的かつ正確に行うための機能が搭載されており、スムーズな現状把握と改善点の発見が可能。長時間労働を未然に防ぎ、労働環境・職場環境の改善に繋げていくことができます。アナログな手法では労働時間の把握や管理に限界があるため、長時間労働の課題を抱えている場合はシステムの導入・活用をおすすめします。
2.残業しない風土の醸成・仕組みづくり
長時間労働が常態化している企業は、定時で退社するのを良しとしない風土や、残業を行うのが当然であるという風土が根付いているケースが多くあります。このような環境が慢性化していると、なかなか長時間労働は是正されません。
そのため、長時間労働を未然に防ぐには、システムの導入や労働時間の管理を行うだけでなく、社内に残業を行わない風土や仕組みを浸透させていく取り組みを行うことも重要となってきます。
3.ストレスチェックの実施
長時間労働に対する対策では、実際の労働時間を適正範囲内に管理するだけでなく、労働者の心身の健康に問題が生じないように把握・管理することも重要。そのための有効な対策が、ストレスチェック制度の導入です。
定期的に労働者のストレス状況についてチェックを行うことで、メンタルヘルス問題の早期発見・リスク軽減・職場環境改善を図ることができます。
まとめ
働き方改革・健康経営など、近年の企業は利益を追求するだけでなく従業員の働きやすさ・ワークライフバランスを重視することも求められています。長時間労働は、現代の企業が決して無視できない重要な課題。健全な経営を行うためにも、企業価値を向上させるためにも、正面から向き合い対策を講じておく必要があります。
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