フレックスタイム制とは?仕組みや導入目的を徹底解説
今では日本の企業の60.2%が採用しているフレックスタイム制。フレックスタイム制度は、働く時間をライフスタイルに合わせて柔軟に変えられるので、人によっては多くの恩恵を受けられる制度です。
今回はワークライフバランスへの考慮がなされたこの制度の導入を考えている経営者の皆様に向けて、制度の仕組み、メリット・デメリットや、導入時に考慮するべき点なども併せてご紹介します。
- フレックスタイム制とは?
- フレックスタイム制の仕組み
- 労基法に基づいたフレックスタイム制の適切な導入方法
- フレックスタイム制の課題
- フレックスタイム制が合う人の特徴
- フレックスタイム制が合わない人の特徴
- まとめ
フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制と聞くと、いつでも好きな時間に自由に働けるというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、正確な定義はご存知でしょうか?
フレックスタイム制は変形労働制の一種で、所定の期間内で総労働時間を決定し、始業時間と就業時間については労働者が決定できる制度です。
始業時間・就業時間の決定権があるとはいえ、勝手気ままに会社に行って、好きなときに帰れる、ということではありません。
フレックスタイム制を導入する際は、対象となる労働者、期間、総労働時間の詳細を労使間で決めて、内容を協定書に明記しなければなりません。
また、コアタイム、フレキシブルタイムなどがある場合は、1日の働く時間を完全に自由に決められるわけではなく、自由になるのはあくまでも部分的。こうした取り決めは任意ですが、一般的に完全自由になるケースの方が少ないでしょう。
よってフレックスタイム制は、労働者が任意に出退勤時間を決めることができますが、その運用には細かい規則があり、好き勝手にできる制度ということではないのです。
しかし、就業時間を一律にせずに変則的に働くことができるのは、労働者にとってメリットが多く、働き方改革が進められる昨今、改めて注目を集めています。
フレックスタイム制誕生の経緯
日本で正式に導入されたのは1988年、今からおよそ30年前から始まっており、決して新しい制度ではありません。フレックスタイム制が導入されたのは、丁度その頃から自由に働いた方が成果がでるクリエイティブな職種が増えたこと、1986年に施行された男女雇用機会均等法により、女性の社会進出が進み、育児、介護と仕事を両立できる労働環境の整備が急務となったことなどがあげられます。自由で柔軟な働き方へは現在も依然ニーズが高く、すでに多くの企業で導入が進められているようです。
フレックスタイム制の導入目的
フレックスタイム制の導入の目的は、ワークライフバランスの実現、都市の通勤ラッシュ・交通渋滞の緩和など。厚生労働省は、長時間労働者が仕事と家庭・地域生活と両立できるよう、フレックスタイム導入を積極的に推進しています。また、通勤時間帯が分散されれば、通勤ラッシュ・交通渋滞は自然と緩和されます。それだけ労働者も楽に移動ができるので、健康管理にも一役買っています。
フレックスタイム制の仕組み
フレックスタイム制度の概要を掴んだところで、次はその仕組みについて明らかにします。先ほども少し触れましたが、フレックスタイム制度にはコアタイムとフレキシブルタイムがあり、この2つを上手く組み合わせることで、様々な不都合が解消されます。
コアタイム
コアタイムは必ず出勤しなければならない時間帯で、フレックスタイム制度でもコアタイムが定められている場合は、その時間内に自由に出退勤することはできません。いわゆる「定時」に相当するもので、コアタイムの時間に間に合わなければ遅刻扱いになり、コアタイムが終わる前に帰宅すれば早退扱いになります。
コアタイムは任意に定めることが可能で、必ずなくてはならないということはありません。導入する際は労使協定を行い、合意をすれば時間設定も自由です。コアタイムを一切導入せず全部をフレキシブルタイムにすることもできます。
会議を行う必要がある会社、外部業者との打ち合わせが多い職種では社員が全員バラバラに働くと会社が機能しなくなるのでコアタイムが必要です。
一般的にはフレックスタイム制度を導入してもコアタイムを定めることが多いでしょう。
フレキシブルタイム
フレキシブルタイムは労働者が働くかどうか選択できる時間帯で、この間はいつでも出退勤することができます。フレキシブルタイムはコアタイムの前後に設けなければならず、前後どちらか一方にまとめることはできません。例えばコアタイムが午前9時~14時、フレキシブルタイムが14時~17時というのはNGです。コアタイムは日中の真ん中の時間帯10時~15時に置き、フレキシブルタイムは8時~10時、15時~17時といった具合に定められます。
というのも、コアタイムは定時なので、前後にフレキシブルタイムを設置しないと、出退勤時間のいずれかが固定になってしまい、フレックスではなくなってしまうからです。
コアタイム同様、フレキシブルタイムについても労使間の取り決めが必要で、開始時間、終了時間を事前に定めなければなりません。
労基法に基づいたフレックスタイム制の適切な導入方法
フレックスタイム制度は労使間の話し合いで時間を決定することができますが、その内容は労働基準法に基づいてなければなりません。次は法律に則った適切な導入方法について解説します。
労使協定を結ぶ
フレックスタイム制度を導入するにあたり、最初にすることは労使協定を結ぶことです。フレックスタイムは、経営者が勝手に内容を決めることも、労働者が勝手に始めることもできません。仮に労使間で合意ができていたとしても、協定を結ばずに制度を導入した場合は労基法違反になるので要注意です。
労使協定で取り決める内容は次の通りです。
・対象者
フレックスタイム制度を適用する個人、グループ、課、部署を定めます。対象は全従業員でもOKです。
・清算期間および起算日
フレックスタイム制度における清算期間とは、従業員が仕事に従事すべき期間のことで、大抵は給料計算に合わせて1ヶ月に設定されます。また起算日=清算期間のカウントを始める日も決めなければなりません。例えば毎月1日、毎月15日など起算日を設定することで、清算期間が明確になります。
・清算期間内の総労働時間
フレックスタイム制度における所定労働時間のことです。総労働時間は、清算期間が1ヶ月なら、ひと月の労働時間を平均したときに、原則1週間40時間以内となるようにする必要があります。
・1日当たりの労働時間
1日当たりの労働時間を決めるのは、有給をとったときに1日あたりいくら払うのか計算できるようにするためです。
・コアタイム
コアタイムを定めるときは開始時間、終了時間を定めなければなりませんが、時間は労使間の合意があれば自由に設定することが可能です。ただし、コアタイム開始 or 終了が一般的な会社の始業、終業時刻とほぼ同じという場合は、フレックスタイムの趣旨に反することになるので注意が必要です。
コアタイムの時間は必ずしも毎日同じでなくても良く、曜日によって変わってもOKです。
・フレキシブルタイム
フレキシブルタイムについても、開始時間・終了時間を決める必要があります。フレキシブルタイムはある程度まとまった時間が必要で、コアタイムの前後2~3時間に設定されることが多いでしょう。フレキシブルタイムの時間も労使間で任意に決定することができますが、フレキシブルタイムが30分など、極端に短い場合はフレックスにはならないので、こうしたケースも注意が必要です。
協定書&就業規則を作る
フレックスタイム制度の内容について労使間で合意ができたら、その内容を協定書としてまとめる必要があります。書面には経営者と労働者の代表が署名捺印します。
また、就業規則にもその旨を記載します。記載ポイントは「始業時間、終業時間は労使協定で定めた範囲に於いて労働者が自由に決定できる」という主旨の条文を加えればOKです。
労働者に周知する
フレックスタイム制度を導入したら、いよいよ運用です。会社は象の従業員にフレックス制度の内容をよく説明する必要があります。また、フレックスタイムにすると残業時間や割増賃金の算出方法が変わるので、その点も誤解のないように十分理解をさせてください。周知の程度については、基本的に労働者が就業規則等を見たいときにいつでもアクセスできるような状態にしておけばよく、理解を徹底させるといった義務はありません。しかし、従業員が就業規則の存在すらしらない、閲覧方法が分からないといった場合は会社の努力不足とみなされるので、経営者、管理者の方はその点も注意が必要です。
フレックスタイム制の課題
フレックスタイム制度は、自由に働けるなど比較的良いイメージがありますが、課題も多い制度だと言われています。フレックスタイム制度を導入すると、どんな問題があるのでしょうか?
勤怠管理が面倒
フレックスタイム制度を導入すると、部署内の従業員の働く時間がバラバラになります。コアタイムはあるものの、出退勤時間は相当のバラつきがでることも予想されるでしょう。
そうなると、勤怠管理は非常に複雑になります。残業時間の管理、割増賃金の支払いも独自ルールが適用されます。加えて、総労働時間が所定の時間に満たないこともあり、その場合は賃金カット or 不足分の時間を翌月に繰り越すなど、これまたその都度対処しなければなりません。
管理が難しいのは、労働時間の把握や給与計算だけではありません。フレックスタイム制度にすると、朝早くから働き始める人もいれば、夜に集中して働く人もいるので、従業員の働きぶりをチェックしきれないでしょう。
こうした課題を解決する方法の1つは、勤怠管理システムを導入することです。勤怠管理システムを導入すれば、就業時間の設定、多彩な打刻機能、複雑な休暇管理、給与計算システムとの連携など、フレックスタイム制度であっても定時の時と同様の勤怠管理を行うことができます。勤怠管理システムの導入をお考えなら、別記事「フレックスタイム制に対応したおすすめ勤怠管理システム」もあわせてご覧ください。
チームワークに問題を抱えやすい
フレックスタイム制度はチームワークに支障をきたすこともあります。
職場で一体となって1つのプロジェクトに取り組んでいるときなどは、お互いのコミュニケーションを密にとる必要があります。しかしフレックスタイムだとコアタイム以外は同僚と会える保証がありません。たまたま会えるかもしれないし、そうでないかもしれない…となると触れ合う時間は限定され、コミュニケーション不足によるチームワークの乱れが心配されます。チャット、メールなど意思伝達ツールは発達していますが、やはり直に話す方が質の高いコミュニケーションをとることができるので、この点は課題です。
また、フレックスタイムはいつでも働けるので、朝が苦手な社員は常時遅刻の様な状態になりがちです。働く時間がバラバラだと常時監視がある訳でもないので、つい怠けてしまうこともあるでしょう。そうした社員がいると全体の士気が低下し、チームワークが成り立たなくなるおそれもあります。
フレックスタイム制が合う人の特徴
フレックスタイム制度には一長一短あることがお分かりいただけたと思います。それではフレックスタイムが合うのはどんな人なのでしょうか?
育児・介護と仕事の両立を図りたい人
フレックスタイム制度は、育児・介護と仕事の両立をしたい方にとっては最適の働き方です。小さな子供を抱えていると朝も大忙し。子供が病気でもすれば出勤が遅れることもあるでしょう。また、介護をしている場合も同様で、緊急事態になれば仕事どころではありません。こうした状況のときに家にいられるのは大きなアドバンテージです。ちょっとした融通がきくかきかないかでは大違い。定時で働いていると勤務時間は絶対なので、むやみに私情を挟むことはできませんが、フレックスタイム制度なら都合に合わせて柔軟に働くことができます。特に育児や介護の最前線にいる女性には最適の働き方でしょう。
時間を有効に使いたい人
フレックスタイムは時間を有効に使いたい人にもピッタリの働き方です。コアタイム以外は自分で出勤時間を調整できるので、朝早く出勤して、夕方の時間帯はスクール通い、資格習得などの自分磨きに時間を使うこともできるでしょう。フレキシブルタイムだけの日があれば、他の日に業務を集中して行い、その日を丸一日休日とすることもできるので、定時で働くより多くの余暇の時間を生み出すこともできます。目的意識を持って集中して働くことで、業務効率化も達成できるでしょう。
通勤ラッシュを避けたい人
フレックスタイム制度は通勤ラッシュを避けたい人にもおすすめです。もともとフレックスタイムは通勤ラッシュ回避、交通渋滞緩和のために設けられた制度であり、実際にフレックスで働く人のアンケートでも「通勤が楽になった」という声が圧倒多数です。また、通勤ラッシュはストレスを感じやすく、体への負担も大きく、健康への悪影響も指摘されています。長く健康的に働きたい人にもフレックスタイムはおすすめなのです。
フレックスタイム制が合わない人の特徴
フレックスタイム制度は合う人もいれば、そうでない人もいます。有効活用できれば非常に便利な制度なのですが、フレックスが合わないのはどのような特徴を持った人なのでしょうか?
自己管理ができない人
フレックスタイム制度の場合、働き方については個人の裁量に任されるので、自己管理能力が問われます。総労働時間の中で、いつ何をどのように行うか、計画を自主的に立てて実行に移していかなければなりません。
また、コアタイムの中に会議や打ち合わせなどが含まれるので、複数のことを段取り良く進めていくマルチタスク能力、要領の良さ、調整力も必要となるでしょう。
フレックスタイム制においては、これらを全て自分の責任で行う必要があるので、自己管理が苦手なタイプにとっては辛いかもしれません。また、もともとルーズなタイプの人は、フレックス制度で余計に怠けてしまう可能性もあり、一生懸命働いている人から見ると不公平に感じてしまうこともあるでしょう。
フレックスタイムで能率が上がるのは、自分を律して計画的に働ける人であり、そうしたことが苦手な人の場合は定時で働く方が合っているでしょう。
同僚、取引先とのコミュニケーションを重視する人
フレックスタイム制度を導入すると、確実に同僚と顔を合わせられるのはコアタイムだけです。コミュニケーションがとれるのは基本的にこの時間帯だけなので、どうしてもコミュニケーションが希薄になってしまいます。チャットをはじめとする社内ツールでコミュニケーションをとることはできますが、相手と直に話をしたい場合には不便さを感じることになるでしょう。また、取引先とのやり取りが多い方も、フレックスタイムは不向きです。相手に合わせて働いていたら、結局定時と働き方が変わらないということも多々あるでしょう。他の担当者が不在なら代理対応もしなければならないので、必ずしもフレックスで業務効率化するとは言えません。
オン・オフをはっきりと分けたい人
フレックスタイム制度を導入すると、定時で働いているときよりも時間に対してのシビアさがなくなりがちです。会社はいつ行っても良い、ということであれば、朝も遅れがちになるものです。そうすると、結局遅くまで残って働かなければなりません。フレックスは一見自由そうに見えますが、時間の使い方によってはずっと働いているような状況になりやすく、気が付いたらオフがなくなっていたということもあります。オン・オフをはっきり分けて、メリハリをつけて働きたい人は定時の方が適しています。
まとめ
フレックスタイム制度はワークライフバランスを実現し、交通渋滞、通勤ラッシュを緩和するために誕生した制度で、導入後は家事育児と仕事の両立、満員電車回避など一定の効果を上げています。
フレックスタイム制度にはコアタイムとフレキシブルタイムがあり、通勤時間はフレキシブルタイムのなかで任意に設定することができます。
制度導入にあたっては労使協定を結ぶ必要があり、その内容は協定書にまとめて就業規則にも記さなければなりません。
自己管理ができるタイプの人にとっては非常に都合の良い働き方ですが、時間管理が苦手な人には適さないなど、向き不向きが分かれます。
家事育児と仕事を両立したい、自分磨きの時間を作りたい、通勤ラッシュから解放されたい、そうした希望があり、かつ時間管理が上手な人はフレックスタイムはまたとない制度です。
フレックスタイム制度を取り入れる際は、制度の特徴をよく理解し、メリット、デメリットについて十分に検討してから導入することをおすすめします。
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