企業が注意すべき特定商取引法│規制や罰則を解説
特定商取引法とは、訪問販売や通信販売など特定の商取引による悪質な勧誘行為などを防止し、消費者の利益を守るための規制や違反に伴う罰則などを定めた法律です。対象となる事業を行う企業は、法律をよく理解した上で商取引を進めることが求められます。
この記事では、特定商取引法の概要や対応する際のポイント、問題を防ぐ方法などを詳しく解説します。
特定商取引法とは
特定商取引法とは、事業者による違法な販売や悪質な勧誘行為などを防止するためのルールや、そうした悪質な商取引などから消費者を守るためのルールを定めた法律です。
特定商取引法の対象となるのは、訪問販売や通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入の7つです。聞き慣れない取引もあると思いますが、それぞれの詳しい内容については後ほど解説します。また、消費者を守るルールにはクーリング・オフなどがあります。
事業者に対する規制内容
特定商取引法が事業者に対して規制している内容を説明します。まず、氏名などの明示義務があります。勧誘を開始する前に事業者名や勧誘目的であることを消費者に告げなければなりません。
次に、不当な勧誘行為の禁止です。価格や支払条件などを故意に隠すことや虚偽の説明を行うのは禁止されています。訪問販売や訪問購入における再勧誘も禁止です。消費者が契約を締結する意思がないことを示した後に改めて勧誘してはなりません。
また、誇大広告は禁止されており、広告に重要事項を表示するのが義務付けられています。重要事項とは商品名や種類、代金、事業者の名称などです。契約締結時に重要事項を記載した書面を交付することも義務付けられています。これらの行政規制に違反した事業者は、行政処分の対象です。
民事ルール
特定商取引法に定められた、トラブル防止や消費者の救済のための民事ルールを紹介します。まず、消費者は契約や申込みから一定期間内であれば、無条件に契約の解除ができる「クーリング・オフ」が認められています。
連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引は20日以内、それ以外の取引は8日以内です。解除の通知は基本的に書面で行います。連鎖販売取引と特定継続的役務提供はクーリング・オフ期間後も中途解約権が認められています。
またクーリング・オフ期間後に消費者の債務不履行などを理由に事業者が請求できる損害賠償額は、消費者保護の観点から上限が設定されており、上限額は取引の種類によって異なります。紹介したルール以外にも消費者を守るための民事ルールが定められています。
違反した際の行政処分・罰則
事業者が特定商取引法に違反する行為をしてしまうと、消費者庁の行政処分を受けることとなります。
行政処分の内容は、業務改善の指示(法第14条)や業務停止命令(法第15条)、業務禁止命令(法第15条の2)などです。これらの行政処分は同時に出される場合があります。たとえば、事業所に対して半年間の業務停止命令と責任者への業務禁止命令、合わせて業務改善の指示がされるなどです。
また、内容によっては刑事罰の対象となります。個人に対して最も重い刑罰は、3年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金です。法人の場合は3億円以下の罰金刑が科される場合があります。
「特定商取引法に基づく表記」とは
次に特定商取引法に基づく表記とは何かや、「特定商取引法に基づく表記」に記載すべき内容を紹介します。
「特定商取引法に基づく表記」とは何か
ネットショップやECサイトには「特定商取引法に基づく表記」を記載しなければなりません。専用のページなどを用意して、ショップの販売業者や商取引の内容などについて特定商取引法に基づいて記載します。
ネットショップやECサイトを利用する消費者はこの表記を確認することで、特定商取引法に準じた取引ができるとわかり安心して取引が可能です。「特定商取引法に基づく表記」を掲載する場所に特に決まりはありませんが、消費者を守るための法律であることからユーザーが確認しやすい場所に表示するのが望ましいでしょう。
「特定商取引法に基づく表記」に記載すべき内容
「特定商取引法に基づく表記」に記載すべき内容は次のとおりです。
販売業者名、運営統括責任者名、所在地、送料や手数料など商品代金以外にかかる料金、申込み有効期限、不良品の場合の対応、販売数量、引渡し時期、支払方法、支払期限、返品期限、返品送料、資格・免許、屋号やサービス名、電話番号、連絡先メールアドレスなど。
不良品の場合の対応は、交換や返金の条件について詳しく記載します。引渡し時期は、後払いの場合は注文から何日以内に発送するかを記載し、前払いの場合は注文から何日以内に発送するかの表示が必要です。また、返品期限には納品から何日以内であれば返品できるかと、返品できない商品についても詳しく表示しましょう。
特定商取引法の対象となる商取引
特定商取引法の対象となる商取引としては、7つの類型が指定されています。各類型がどのような取引なのかを説明していきましょう。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引
- 特定継続的薬務提供
- 業務提供誘引販売取引
- 訪問購入
訪問販売
訪問販売とは、事業者が営業所以外の場所で契約して商品などを販売することを指します。最も一般的なのは、セールスマンが消費者の自宅を訪問する販売形式です。しかし、訪問販売は営業所以外の場所で契約することを意味するため自宅への訪問に限りません。
路上での販売や、ホテルなどを一時的に借りるなどする展示販売なども訪問販売に該当します。また最終的に営業所で販売する場合でも、路上などで消費者を呼び止める「キャッチセールス」なども訪問販売です。
通信販売
通信販売とは、事業者がインターネットや雑誌などで広告を出し、郵便や電話、インターネットなどから注文を受けて商品を販売する形式を指します。ただし、後述の「電話勧誘販売」に該当する取引は除きます。事業者は営利の意思があり、反復継続して取引を行っている者を指すため、個人がネットオークションに出品している場合でも客観的に見て事業者と判断されると「通信販売」に該当されることが特徴です。
電話勧誘販売
電話勧誘販売とは、事業者が電話をかけて消費者を勧誘し、電話の中で契約の申込みを受ける取引です。また、電話を切った後に消費者が郵便や電話などで契約の申込みをしたとしても、電話勧誘によって購入の意思を固めていた場合は電話勧誘販売に該当します。また、事業者から電話をかけていない場合でも、具体的な勧誘目的を告げずに消費者に電話をかけさせて勧誘する方法も電話勧誘販売です。
連鎖販売取引
連鎖販売取引とは、企業ではなく個人を勧誘しながら次の販売員を紹介していき、徐々に大きな組織を作っていく取引方法です。マルチ商法と呼ばれる場合もあります。たとえば「ほかの人を入会させると1万円の紹介料がもらえる」などと言って個人を勧誘する方法や、取引を行うために入会金などの何らかの金銭的な負担をさせる方法が特徴です。勧誘される人がもらえる紹介料などの金銭を特定利益と言い、入会金などの負担金は特定負担と呼びます。
特定継続的薬務提供
特定継続的役務提供とは、長期・継続的な役務を提供し、5万円を超える高額な対価を受ける取引を指します。特定継続的役務提供に該当するのは「エステティック」「美容医療」「語学教室」「家庭教師」「学習塾」「パソコン教室」「結婚相手紹介サービス」の7つの役務です。「エステティック」と「美容医療」は1ヵ月を超えるもの、それ以外の5つの役務は2ヵ月を超えるものが該当します。なお。家庭教師や学習塾は幼稚園や小学校に入学するためのものは含まれません。
業務提供誘引販売取引
業務提供誘引販売取引とは、利益を得るために特定の商品やサービスを購入する必要がある取引のことを指します。たとえば、特定のパソコンやソフトを購入することでWebデザインの仕事をあっせんする、といった内容です。また、チラシ配りの仕事を行うのに配布するチラシを購入するのも該当します。ほかにも健康商品を購入し、使用した感想を提供するモニター業務なども業務提供誘引販売取引です。
訪問購入
訪問購入とは、購入業者が店舗以外の場所で行う物品の購入を指します。たとえば、中古品の買取業者が消費者の自宅を訪問し、中古品の買取りを行う場合が該当します。店舗以外の場所での取引に限定されるため、リサイクルショップや古書店、ブランド物買取店などに直接商品を持ち込む場合は該当しません。訪問購入を行う事業者は購入の際に法で定められた内容を満たす書面を、消費者に渡す必要があります。
企業が特定商取引法に対応する際のポイント
特定商取引法に該当する事業を行う場合には、違法な取引をしてしまわないように慎重な対応が求められます。特に「書面交付義務の履行」「勧誘・広告規制を遵守する」という2つのポイントを押さえておきましょう。
- 書面交付義務の履行
- 勧誘・広告規制を遵守する
書面交付義務の履行
特定商取引法では事業者に対し、消費者との取引時に重要事項を記載した書面を交付することを義務付けていることが特徴です。書面には販売価格や支払時期、支払方法、事業者の名称と連絡先、住所、契約の解除に関する事項などを記載しますが、詳しい内容は特定商取引の類型によって異なります。
書面の内容に不備があると、書面交付義務が履行されていない状態となります。この状態の間はクーリング・オフが適用される場合があり、消費者から契約を解除されるおそれもあるため注意が必要です。
クーリング・オフ制度は消費者を守るために重要な制度である一方、事業者は返金のリスクを負うため注意しましょう。書面の不備によって多数の消費者からの返金が重なる事態にならないよう、書面に必要事項の記載が大切です。
勧誘・広告規制を遵守する
特定商取引法では勧誘や広告に関する規制が数多く定められています。たとえば訪問販売では勧誘の前に消費者に勧誘を受ける意思があるかを確認することが求められており、意思がない際に勧誘を継続することや改めて勧誘することが禁止されています。
こうした規制に対して万一、違反を問われる場合「言った・言わない」という水掛け論に陥ってしまいやすいでしょう。そのため、勧誘プロセスや契約手続きの記錄を残すことが大切です。
特定商取引法関連の問題を防ぐ具体的な方法
特定商取引法に該当する事業を行う場合に行政規制への違反や誤って違法な取引を行ってしまわないためには、「従業員教育の徹底」「専門家との連携」「外注やツールの活用」といった具体的な対策が効果的です。
従業員教育を徹底する
特定商取引法に違反しないためには、従業員一人ひとりが法令違反にならないよう業務に当たることが重要です。そのためには、自分の業務の中で具体的に特定商取引法違反となりうる形を理解しておくことが求められます。理解度を高めるには研修が効果的です。
研修の目的とゴールを明確にしてから取り組み、研修後も理解度をチェックするなど従業員のフォローをしましょう。また、研修を自社で行うのが難しい場合には、外注やeラーニングの利用もおすすめです。特定商取引法に特化した研修サービスやeラーニングも多く見られます。
専門家と連携しながら対応する
特定商取引法に違反しないためには、従業員の理解度を高めるのと同時に専門家に相談できる体制を整えておくのも大切です。法律違反や規制に反しないように業務フローやマニュアル、チェックシートなどを作成し、法律の専門家に内容に不備がないか確認してもらうのも良いでしょう。
また、消費者との間でトラブルがあった場合に相談ができる弁護士や司法書士を見つけておくことも大切です。中でも弁護士であれば違反やトラブルの予防から、トラブルが起こってしまった場合に解決に導くところまで一貫して依頼できます。
外注やツールを活用する
これまで消費者がクーリング・オフを通知する際は書面で行う必要がありましたが、2022年6月1日に改正特定商取引法が施行され「クーリング・オフ通知の電子化」がはじまりました。そのため、事業者は電子メールでの受付けだけでなくWebサイトに受付フォームを整えるなどの対応が今後求められます。
また、今後交付書面の電子化も予定されており、事業のデジタル化を進めることは避けられないと言えそうです。電子署名サービスや電子契約システムなどの導入や、業務のデジタル化を進めるために専門家に相談するのもおすすめです。
まとめ
訪問販売や通信販売、特定継続的役務提供など特定商取引法に該当する事業を行う企業は、規制や民事ルールをよく理解しておかなければなりません。また特定商取引法を遵守しトラブルを未然に防ぐためには、従業員の教育や専門家との連携が大切だといえます。特定商取引法の研修を外注する場合や弁護士などに依頼先を探す際には相見積もりを取るのが重要です。
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