ERPとは?基幹システムとの違いについて簡単に解説
ビジネス環境が複雑化し、企業間競争が激しさを増す昨今において、生産性の向上や経営の効率化を実現するERPの存在はより重要視されつつあります。しかしながら、その概念やメリットについて十分に理解できていない方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、ERPの疑問に答えながら、基幹システムとの違い、メリット・デメリット、導入する際の流れなど、ERPに関する基礎知識について詳しく解説します。ERPの導入タイプや、クラウド型ERPとオンプレミス型ERPの違いにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
- ERPとは
- ERPと基幹システムの違い
- クラウド型ERPとオンプレミス型ERPの違い
- ERPの導入タイプ
- ERPのメリット
- ERPのデメリット
- ERPの導入の流れ
- まとめ:ERPをよく理解してスムーズな導入を
ERPとは
ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の略で、企業が保有する基本資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を一元管理の上、適切に分配し有効活用するための重要なシステムです。
キーマンズネットが実施したアンケート調査によれば、ERPを「利用している」と答えた企業は過半数以上となる52.0%でした。また、「現在は利用していないが、導入予定」と答えた企業は12.2%となり、合わせて6割以上の企業がERPをすでに導入している、もしくは導入に前向きであるとの結果が出ています。(※1)
※キーマンズネット『ERPの利用状況(2022年)/前編』のデータをもとに弊社にて作図
また、中小企業庁が発行した「中小企業白書」では、IT投資額が増加傾向にある企業の70%以上において、デジタル化の推進が業績に好影響を与えているという結果が示されています。(※2)
※出典:中小企業庁『2021年版 中小企業白書』第2-2-14図 デジタル化推進による業績への影響調査(IT投資額の推移別)
これらは、ERPの導入による効果の有効性を裏付ける統計データであり、今後さらにERPの重要性が高まることを予想させるものです。
※1 参考:キーマンズネット『ERPの利用状況(2022年)/前編』
※2 参考:中小企業庁『2021年版 中小企業白書』第2-2-14図 デジタル化推進による業績への影響調査(IT投資額の推移別)
ERPの主な機能
ERPが具えている主な機能は、製品によってその内容や名称が異なるものの、概ね次のとおりです。
- 販売管理
- 生産・在庫管理
- 顧客管理
- 予算管理
- 財務・会計管理
- 人事・給与管理
- プロジェクト管理
- 営業支援
- BI(ビジネスインテリジェンス)
これらがすべて統合され、有機的につながっていることがERPのポイントです。各機能にて処理されるデータを一元管理の上、さまざまな業務で共有しながら、効果的な戦略立案やタイムリーな意思決定に活かせるところに大きな特徴があります。
ERPが必要になった背景
1960年代から1970年代初頭までは、「IBM System/360」などのメインフレームや、「IBM AS/400」などの中型コンピュータシステムで情報を管理し、企業の基幹業務を支えていました。しかし当時は、業務内容や部署ごとに異なる設計で独自のデータを扱っていたため、業務間情報の統合や部署間のデータ連携が困難な状態でした。
そこで、各システム間でデータの整合性を図り、企業全体の状況を見えやすくするために、1973年に世界最初のERPとなるSAP社の「R/1」が登場しました。「R/1」は、一部の業務ではなく、企業全体の基幹業務を一元的にシステム化するという概念の下で開発されており、これにより上述の課題が一気に解決したのです。なお、日本でERPが普及したのは、「R/1」の登場から約20年後、SAP社の日本法人(SAPジャパン)が設立されたことがきっかけでした。
ERPと基幹システムの違い
基幹システムは、販売管理・在庫管理・財務管理・人事管理など、業務の種類ごとに独立しており、それぞれが個別に効率化を図るものです。企業内の各部門は、自らの業務に応じた基幹システムを活用することで、独自に最適化を目指します。
一方でERPは、すべての基幹システムを1つのパッケージに統合し、あらゆるデータを一元管理することで、経営戦略や意思決定に活用するものです。あくまで経営や事業運営という観点で利用され、各部門ではなく、企業全体の最適化を図ることを目的としています。
クラウド型ERPとオンプレミス型ERPの違い
ERPは、その形態によって「クラウド型ERP」「オンプレミス型ERP」の2種類に大別されます。
クラウド型ERPは、インターネットを通じてアクセスするクラウド環境にシステムを構築し、稼働させる形態のERPです。必要となる機器やネットワークなどのリソースを自社で調達する必要がないため、初期費用が抑えられます。その上、バージョンアップなどのメンテナンスもERP提供側で一括対応するため、基本的には運用・保守費用もかかりません。一方で、インターネット上でデータ通信することになるため、セキュリティには十分に留意する必要があります。
オンプレミス型ERPは、サーバーやネットワークなどのリソースを自前で調達し、自社内に構築した環境で稼働させる形態のERPです。オンプレミス(on-premises)には、「敷地内で」「構内で」という意味があります。自社で任意の環境を構築できるため、状況に応じたカスタマイズなどの自由度が高く、他システムとの連携も比較的容易に実現可能です。一方で、導入費用・ランニングコストともに高額となるほか、適切な環境の構築や運用には相応のノウハウが必要となります。
ERPの導入タイプ
ERPの導入タイプは、主に次の3種類に大別されます。
- 完全統合型
- コンポーネント型
- 業務ソフト型
以下、それぞれについて詳しく解説します。
完全統合型
完全統合型は、人事管理・給与管理・販売管理・在庫管理・生産管理・会計管理・営業管理など、あらゆる業務に関するシステムを統合し、1つのパッケージとして提供するタイプのERPです。
データの一元管理により、各システム間の連携や情報の統合も容易に実現できるほか、さまざまな業務が1つのシステムとしてまとめられているため、総合的な効率化が図れます。
コンポーネント型
コンポーネント型は、各業務に応じたシステムを任意に選択し、1つずつコンポーネントとして導入できるタイプのERPです。販売・生産・製造・会計など、各業務単位で必要となるシステムを導入し、個別に効率化を図りながら、連携することで一元的なデータ管理もできます。
すべてを一気に導入するのではなく、まずは必要最小限の業務に絞ることで初期費用を抑えられるほか、状況に合わせてシステムを追加・拡張できる柔軟性の高さも特徴です。
業務ソフト型
業務ソフト型は、在庫管理・発注管理・会計管理など、業務単位で情報を一元管理するタイプのERPです。「在庫管理サービス」「発注管理サービス」「請求業務サービス」といった形で単体で提供されます。
各業務に特化し、機能が限定されているため導入費用を抑えられる上、短期間で利用開始できるのが特徴です。他の業務ソフト型ERPとの連携も可能ですが、データの一元管理はできません。
ERPのメリット
ERPのメリットには、主に次のようなものがあります。
- 企業の経営資源を見える化できる
- 生産性向上が期待できる
- 情報の一元管理ができる
- ガバナンスやセキュリティの強化につながる
- 他のシステムと連携できる
以下、それぞれについて順に解説します。
企業の経営資源を見える化できる
変化の激しい社会環境においてビジネス競争が厳しさを増す中、チャンスを逃さずタイムリーな意思決定を実現するリアルタイム経営が重要視されています。ERPの導入により、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という経営資源が見える化され、企業内で発生している事象や全体の状況に対する容易な把握が可能です。
その結果、経営者の意思決定がスピーディに行えるだけではなく、従業員も部門を超えた最新情報がキャッチアップできるため、次に実施する適切なアクションが明確になり、リアルタイム経営が加速します。
生産性向上が期待できる
生産性向上が期待できることも、ERPを導入するメリットの1つです。メインフレームや中型コンピュータシステムを利用した従来のシステムではそれぞれの業務が個別に効率化されている状態であり、部門間のスムーズな連携が図れないことが課題でした。
ERPを導入することで各システムをシームレスな1つのパッケージとして集約できるようになると、部門を超えたデータの連携や情報の共有が容易となるため、お互いに協力してシナジーを生み出すことが可能です。その結果、企業全体で総合的な業務効率化が期待できます。
情報の一元管理ができる
情報の一元管理が実現できることも、ERP導入の大きなメリットです。従来のシステムでは、業務や部門ごとにデータを抱えていたため、各情報の連携や全体の状況把握が困難な状態でした。
ERPの導入で、統合されたデータベースによってすべての情報が一元管理されるため、部門をまたいだデータの連携や最新情報の取得が容易になります。経営者は企業全体の状況をスピーディかつリアルタイムに把握でき、経営戦略の立案やタイムリーな意思決定に役立てることが可能です。
ガバナンスやセキュリティの強化につながる
ERPの統合データベースによって情報が一元管理されることにより、企業全体の動きがリアルタイムに把握できるため、誤った作業や不正な処理も迅速に発見できます。
また、各業務・部門に独自のシステムを活用していた従来の形態では、それぞれが個別にセキュリティ対策を講じる必要があり、非効率な上に対策レベルもまちまちでした。ERPの導入ですべてのシステムが集約されるため、統一されたセキュリティ対策を効率的に実現できます。
これらによって、企業におけるガバナンスやセキュリティの強化につながることも、ERPのメリットの1つです。
他のシステムと連携できる
他のシステムと連携できることもERPのメリットです。パッケージ内で複数の機能がシームレスにつながる自動連携はもちろんのこと、API連携などの方法により、外部のシステムや他のソフトウェアとも容易にデータの連携・共有ができます。
連携によって必要な機能を迅速に取り入れることでシステム全体を任意に拡張できるほか、ERP導入前より利用しているシステムが存在する企業は、連携によって引き続き活かすことが可能です。
ERPのデメリット
さまざまなメリットがある一方で、ERPにはデメリットも存在します。ERPのデメリットには、主に次のようなものがあります。
- 導入や管理・運用コストが発生する
- 使い方を社員に教育する必要がある
- システム選定に知識が必要
以下、それぞれについて順に解説します。
導入や管理・運用コストが発生する
ERPの導入には一定の初期費用がかかります。また、導入後、適切に活用するためのランニングコストが発生することも認識しておかなければなりません。
初期費用には、ERPが稼働する環境を構築するためのコストのほか、ライセンス購入費などがあります。クラウド型ERPを選択することでサーバーやネットワークなどのリソースを自前で調達する必要がなくなり、構築コストを抑えられますが、ERPを利用するためのライセンス購入費は別途必要です。
一方、ランニングコストには、サーバー・ネットワークの管理・運用コストや、バージョンアップなどのメンテナンス費用、社内での活用を管理・主導する担当者の人件費などがあります。
また、状況に合わせてカスタマイズを実施する場合には、そのための開発費用がかかることにも注意が必要です。
使い方を社員に教育する必要がある
ERP導入の効果は、社員が適切に活用してこそ発揮されるものです。とはいえ、ERPの活用は既存業務フローの変革を伴うことが多く、特に初めは反発や戸惑いが発生することも予想されます。そのため、教育担当者を設置して定期的に講習会を開催するなど、社内への教育・啓蒙に尽力することが重要です。
また、単に操作方法を教えるだけではなく、ERPを導入することになった背景や、活用の目的も併せて理解してもらう必要があります。トップダウンで実施されることの多いERPの導入ですが、トップが介入せずとも現場の社員同士で協力し合える仕組みを構築するなど、会社全体が前向きになれるような分かりやすい状態を目指しましょう。
システム選定に知識が必要
海外企業も含め、ERPは数多くの開発会社から提供されており、内容は多種多様です。その中から自社に最適なシステムを選定するのは決して簡単な作業ではなく、ITに関する幅広い知識を持っていることはもちろん、自社業務に対する詳細な現状を把握している必要があります。
頼りになる人材が社内にいない企業は担当者自ら勉強する努力が不可欠となるほか、場合によっては外部のプロフェッショナルにコンサルティングを依頼するなどの対策を検討することが重要です。
ERPの導入の流れ
ERP導入の基本的な流れは、次のとおりです。
- ERPの導入の目的を明確化する
- 導入体制を整備する
- 既存業務のプロセスを確認する
- ERP導入後の業務フローを策定する
- 導入トライアル
- 本番稼働
以下、それぞれのステップについて順に解説します。
ERPの導入の目的を明確化する
ERPの導入に際しては、まずその目的を明確化することが重要です。そのためには、経営戦略に照らしながら自社における現状の課題を洗い出した上、優先順位を付与しながら整理する必要があります。その結果を基に、ERPによってどのような課題を解決したいのか、何を実現したいのかといった目的を定めましょう。
目的があいまいなままだと、ERP導入の方向性が定まらず、以後のステップが一貫性の伴わない中途半端なものとなります。その結果、社内へのスムーズな浸透もままならず、活用によって期待した成果を得ることも困難になってしまいます。
導入体制を整備する
目的が明確になったら、次にERP導入のための体制を整備しましょう。導入を推進するメイン担当者、全体を管理し意思決定を担う責任者など、各メンバーの責任や役割を明確にしながら必要な体制を整えることで、スピーディな導入が実現できます。
また、この時点で導入後の運用を考慮した体制を検討しておくことも大切です。システムの操作方法を社内に教育するメンバーや、業務フローの変更・社内ルールの設定に関する周知・浸透を主導するメンバーなど、必要となる人材は多岐にわたります。スムーズに活用を進めるためにも、しっかりとした体制で臨むことが重要です。
既存業務のプロセスを確認する
ERPの導入は多くの場合、既存の業務プロセスやフローの変革を伴います。そのため、新たなプロセスやフローを構築するための材料として、導入前に現状を詳細まで洗い出し、整理しておくことが重要です。
現行業務ではどのようなプロセスで仕事が進められ、誰が関わっているのか、どういったフローで完結するのかなどを細かく確認した上で、フローチャートにまとめるなどの方法で分かりやすく可視化しておきましょう。
ERP導入後の業務フローを策定する
既存業務のプロセスを確認の上、詳細まで可視化できたら、それを基にERPによって効率化が実現できる業務を洗い出します。例えば、請求発行業務において手作業による請求書の印刷・封入・郵送などが行われている場合、ERPによる格好の効率化ポイントとなります。
その上で新たな業務フローを策定しますが、決して現行のやり方や長年の慣習にとらわれることなく、あくまでも業務を効率化する観点から最適なフローを検討することが重要です。なお、業務フローは次項で触れる導入トライアルの結果によっては変更となる可能性があります。
導入トライアル
ERPの本格的な活用を始める前に、まずは導入トライアルによって課題や問題点を洗い出すことが重要です。前項で策定した新たな業務フローが効果を発揮できるか、分かりづらい箇所はないか、運用に無理はないかなど、実際にERPを利用しながらさまざまな観点からチェックします。
なお、トライアルでは、経営者など特定のメンバーだけではなく、可能な限り多くの従業員に試用してもらうのが理想です。あらゆる立場の人間がそれぞれの視点で使ってみることで、一部の人間のみでは気付きづらい問題が発覚する可能性が高まります。洗い出された課題や問題は確実にフィードバックの上、業務フローの改善などに役立てましょう。
本番稼働
導入トライアルのフェーズが終わったら、本番稼働を開始しても良いかの判定レビューを実施します。ERPは全社的な取り組みとなるため、判定は経営者や幹部を交えてしっかりと行いましょう。
判定レビューによって問題ないと判断されれば、いよいよ本番稼働です。スピーディな浸透とスムーズな活用を目指し、当初は短いスパンで関係者による会議を実施の上、効果の検証、課題の共有、改善策の検討などを繰り返し行うことをおすすめします。
まとめ:ERPをよく理解してスムーズな導入を
以上、ERPとは何かといった疑問に答えながら、基幹システムとの違い、メリット・デメリット、導入する際の流れなど、ERPに関する基礎知識について解説しました。本記事が、ERPに関する理解を深め、自社にマッチしたシステムを選定するための一助となれば幸いです。
とはいえ、数あるERPの中から最適なものを選定するのは決して容易なことではありません。もし、ERPの選定に際して課題やお悩みを感じる場合は、PRONIアイミツのご利用をおすすめします。当サービスは、ITツール受発注支援のプロとして、貴社に適したERP選びのサポートが可能です。また、いくつかの簡単な質問に答えるだけで希望要件に合ったERPが分かる無料診断もあります。ぜひ一度お試しください。
探すのに時間がかかる
相場がわからない
複数を比較しづらい
プロが代わりに探して紹介します!