労働安全衛生法とは?重要事項と改正後のポイント
労働安全衛生法とは、労働者の安全や健康を守るために必要な取り決めや措置を定めた法律です。事業者が守らなければならないルールが数多くあるため、労働安全衛生法について知りたいと考える経営者や法務担当者はでしょう。この記事では、労働安全衛生法で企業・事業者が守るべき重要事項や2019年の法改正のポイントなどについて詳しく解説します。
労働安全衛生法とは
労働者の健康や安全を正しく保つためには、事業者が労働安全衛生法について正確に知っておくことが重要です。そこで労働安全衛生法の定義と労働安全衛生法の目的について詳しく解説します。また、混同されやすい労働基準法との関連や違いについても説明します。
労働安全衛生法の定義
労働安全衛生法は、昭和47年に制定されました。条文は第1章から第12章に分かれており、第1条から123条まであります。主に下記の事項が定められています。
- 安全衛生管理体制
- 労働者の危険または健康阻害を防止するために事業者が講じるべき措置
- 機械や危険物、有害物に関する規制
- 事業者が講じるべき健康の保持増進のための措置
- 事業者が講じるべき快適な職場環境の形成のための措置
- 免許などに関する定め
- 罰則
労働安全衛生法の目的
労働安全衛生法の目的は「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成すること」です。たとえば、安全を確保するために危険を防止するための基準や、安全管理者の選任について定められています。また、労働災害を防止するために健康診断や安全衛生教育、就業制限などについて定めがあることが特徴です。さらに、従業員が快適な職場環境で働けるように、職場環境の改善やメンタルヘルスに関する措置なども含んでいます。
※参考:一般社団法人安全衛生マネジメント協会 「労働安全衛生法とは」
労働基準法との関連や違い
労働安全衛生法と混同されやすい法律に労働基準法があります。労働安全衛生法の規定は、もともと労働基準法の一部として内包されていた内容です。昭和22年の新憲法制定に合わせて労働基準法が整備され、その中の14条文が労働安全衛生法の基となる規定でした。
その後も適宜関連規制が整備されていきましたが、高度経済成長期に入り労働災害による死亡者の増加が増え続けたことなどを背景に、昭和47年に可決成立したのが現在の労働安全衛生法です。労働基準法では労働条件に関する最低基準が定められ、労働者の安全や健康に焦点を当てているのが労働安全衛生法です。
労働安全衛生法で企業・事業者が守るべき重要事項
労働安全衛生法のなかで、企業や事業者にとって重要な事柄について解説します。
健康診断
労働安全衛生法の第66条において『事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。※』と定められています。常時使用する労働者については、雇い入れの際と1年以内に1回の定期健康診断を受けさせる義務があります。
受診しなければならない内容についても身長・体重測定や胸部エックス線検査、血圧の測定、尿検査など11の項目が定められています。なお、危険を伴う作業や深夜労働をしている労働者といった「特定業務従事者」については、特定業務への配置替えの際と6か月以内に1回健康診断を受けなければなりません。
※出典:労働安全衛生法
スタッフの配置
労働安全衛生法では、事業所の安全や健康を管理するために事業者が配置しなければならないスタッフについて定めており、事業所の規模と業種によって配置しなければならないスタッフの種類が細かく定められています。そのため、自社に配置しなければならないスタッフについては管轄の労働局などで確認することが必要です。
たとえば「産業医」は、業種に限らず50人以上の規模の事業所では配置しなければなりません。産業医とは、職場で労働者の健康管理などを行う医師のことを指します。毎月1回以上、職場に訪問してもらい労働者の健康管理について指導をしてもらうことが必要です。
労働者への安全衛生教育
労働安全衛生法は、事業者に対して労働者への安全や衛生のための教育をしなければならないと定めています。就業中の安全や健康を守るためには、雇い主の努力だけではなく労働者の知識と自覚も重要なためです。業種や職種、雇用形態にかかわらず労働者を新たに雇い入れた際や作業内容を変更した際に実施します。
業務に関して発生するおそれのある疫病の原因や予防に関すること、整理・整頓・清潔について、事故時の対応などについての内容です。また、林業や建設業などでは加えて機械や原材料の取り扱いや危険性、作業手順、作業開始時の点検についても教育する必要があります。
労働災害の防止
労働安全衛生法では、事業者に対して労働者の労働災害を防止するための措置を講じることを義務付けています。たとえば、高所作業における墜落を防止するために設置する、足場と作業床について細かく規定が定められています。高さ2メートル以上の場所での作業では足場を設置し作業床を設けることが必要です。足場の設置が困難な箇所では、安全帯の装着を義務付けています。
ほかにも、作業場でのヘルメット着用や服装に関するルール、爆発性・発火性・引火性の物などによる危険の防止などの規定が定められています。
危険な場所での作業や危険物取り扱いの届出
労働安全衛生法は事業者に対して、一定の規模や種類の建設工事を行う際など危険な場所での作業や危険物を取り扱う際には、計画を届け出るように義務付けています。工事開始の日の30日前までに、労働基準監督署長に届け出しなければなりません。
たとえば、支柱の高さが3.5メートル以上の「型枠支保工」。高さと長さがそれぞれ10メートル以上の「架設通路」。足場については「つり足場」と「張出し足場」については高さに関係なく、それ以外のものは10メートル以上の構造で届け出が必要です。
※参考:厚生労働省「墜落・転落災害の防止のため安全衛生規則(抜粋)」
リスクアセスメントの実施
リスクアセスメントとは、事業所にある危険性や有害性を特定し、そのリスクの見積もりから優先順位を出し、リスクの低減措置を決定することを指します。労働安全衛生法では、特に製造業や建設業の事業所に対してリスクアセスメントを行うことを努力義務として課しています。事業所はこのリスクアセスメントの結果に基づいて、適切な労働災害の防止対策を講じます。
リスクアセスメントで決定する低減措置の優先順位の指針も定められています。法廷事項が最も優先順位が高く、次いで危険な作業の廃止や変更といった本質対策を優先することなどが示されています。
※参考:一般社団法人安全衛生マネジメント協会 「労働安全衛生法とは」
危険な業務の就業制限
労働安全衛生法では、危険な業務について就業制限をかけています。特定の危険業務に就くためには、都道府県労働局長の免許を受ける必要がある場合や技能講習を修了するなど資格を持たなければならないと定めています。就業制限のかかる特定の危険業務とは、クレーンやフォークリフトの運転や、ボイラーを取り扱う場合などを指します。
たとえば、最大荷重が1トン以上のフォークリフトを運転するためには、フォークリフト運転技能講習の修了等が必要です。その他危険業務についても、労働安全衛生施行令第20条や労働安全衛生規則第41条に定められた資格が必要です。
※参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト
危険物や有害物の取り扱いと表示義務
労働安全衛生法では、労働者に危険や健康障害を及ぼす物の容器や包装には注意喚起などの表示をしなければならないと定めています。
危険物とは爆発や発火、引火の恐れがあるものを指します。また、健康障害を及ぼすものとはベンゼンを含有する製剤などをいいます。こうした危険物や有害物の容器や包装には、その物質や製品の名称と成分や「危険」「警告」と書かれる注意喚起語を表示します。また、「皮膚刺激」など人体に及ぼす作用や反応も記載しなければなりません。
ほかにも炎のマークやどくろマークなどの絵表示や、表示される物の氏名、住所、電話番号なども記載します。
※参考文献:一般社団法人安全衛生マネジメント協会「表示(ラベル):労働安全衛生法における有害物質の容器等の表示義務」
労働者の健康保持
労働安全衛生法では、労働者の健康を保持増進するための措置についても取り決めています。健康保持のための措置として、健康診断の実施のほかに有害業務を行う屋内作業場では、作業環境測定を行うことも義務付けられています。作業環境には、ガスや粉じんなどの有害物質や騒音や高熱などの有害エネルギーが存在する場合があります。
こうした環境は労働者の健康を阻害しかねないため、除去するなどの管理が必要です。そのためには、サンプリングなどの作業環境測定を行い対策に必要な情報を集めることが重要だといえます。
快適な職場環境の形成
労働安全衛生法では、事業者が快適な職場環境を形成するよう努めなければならないことを定めています。
平成4年には厚生労働省が「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」を示していることが特徴です。指針では、快適な職場環境を形成するために「作業環境」「作業方法」「疲労回復支援施設」「職場生活支援施設」を取り組む必要があるとしています。
労働者が不快にならないよう作業環境を適切に維持管理し、心身の負担がかかる作業の負担を軽減することや疲労回復のために休憩室の設置や整備を行うこと、トイレや洗面室を清潔で使いやすい状態にしておくことなどが指針です。
ストレスチェックの義務
2015年から新たに、常時雇用する労働者の人数が50人以上の事業所に対して「ストレスチェック」が義務付けられました。50人以下の事業所でのストレスチェックは努力義務とされています。ストレスチェックを実施することで、高ストレス状態の労働者を早期に発見し、不調になることを未然に防ぐことを目的としています。
事業所の衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者などが実施計画を策定し、医師や保健師などにストレスチェックの実施を依頼します。なお、労働者の人数が50人以上の事業所の場合は、ストレスチェックを実施した結果を労働基準監督署へ報告することも義務です。
ストレスチェックが義務化されたことにより、人事労務担当者の負担は増すばかりです。健康管理システムがあれば、従業員がシステム上でいつでもストレスチェックを受けられ、結果の集計もワンクリックで簡単に行えます。
2019年の労働安全衛生法改正 3つのポイント
近年社会問題になっている長時間労働などを背景に、2019年に労働安全衛生法は改正されています。改正のポイントは「労働時間の適正な把握」「産業医・産業保健機能の強化」「法令等の周知の方法等」の3つです。
1.労働時間の適正な把握
法改正の1つ目のポイントは、労働時間の把握についてです。改正前は、事業者が行う労働者の労働時間の把握についての取り決めは、厚生労働省が示すガイドラインによるものでした。しかし、改正によって「労働時間の状況を把握しなければならない」と義務化されています。
これによりタイムカードやパソコンの使用記録といった、客観的な方法での労働時間の方法が必須となり、その記録を3年間保存することも事業者に義務付けられました。また、改正前のガイドラインでは対象外だった裁量労働制の労働者や管理監督者についても労働時間の把握が必要です。
2.産業医・産業保健機能の強化
2019年の法改正における2つ目のポイントは、事業所における産業医の役割が大きくなり、産業保険機能の強化が図られたことです。
事業者は労働者の健康に関する情報を産業医に提出することになりました。産業医は提供された情報を基に、労働者の健康を保つための措置が必要と判断した場合に労働時間の削減などを事業者に勧告できるように改正されました。
また、産業医からの勧告を受けた事業者は、勧告の内容を衛生委員会に報告することも定められています。なお、労働者の健康を保つために産業医の役割が強くなったことに伴い、産業医の独立性や中立性についても明文化されています。
3.法令等の周知の方法等
法改正3つ目の強化ポイントは、産業医の業務内容を労働者に周知する規定が定められたことです。これにより産業医を選任した事業者は、産業医の業務内容を書面で掲示したり社内の電子掲示板に掲載したりと、分かりやすい方法で労働者に周知することが義務付けられました。
周知するべき内容は、産業医の業務に関する具体的内容や、産業医に渡す労働者の健康に関する個人情報の取り扱い方法、産業医へどのように健康相談を申し出たらよいかなどです。労働者の心身の健康を保つためには産業医の存在が欠かせません。2019年の法改正ではそうした社会的な要請が反映されているといえます。
個人情報保護法のサポートもできるサービスは?
労働安全衛生法では労働者の健康保持のためにストレスチェックや健康診断などを行うことを企業に義務付けています。適切に行うことは労働者に健康で安全に働いてもらうためにも欠かせません。しかし、健康診断の結果などは重大な個人情報なため、扱いには細心の注意を要します。個人情報保護法に関して不安がありサポートやアドバイスが欲しい場合には専門家へ相談するのがおすすめです。
なお、ストレスチェックや健康診断などの従業員の健康管理を効率化できるシステムも登場しています。「従業員の健康管理を行いたいけれど手が回らない」とお悩みの労務担当者は、ぜひ健康管理システムも検討してみてください。
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